裁判、運動などの記録

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 フォルクマン拘縮について 
有茎広背筋移植術について
  正中・尺骨神経剥離術について

フォルクマン拘縮について
  主として小児の肘関節部外傷(とくに上腕骨顆骨折に多い)に続発する前腕部屈筋部の非可逆性結合組織性変化による筋拘縮ををいう。フォン・フォルクマン(1881)がこの特有な類を示す筋拘縮を初めて記載してから、この型の拘縮はフォルクマン拘縮と呼ばれるようになった。

 定型的な拘縮型は、母指内転、第2〜5指MP関節過伸展、IP関節屈曲拘縮を示し、正中神経麻痺と尺骨神経麻痺を伴う、病理学的変化は、肘関節部の外傷により上腕動脈に損傷、血栓形成、スパスムなどが生じ血行障害が発生したときに引き金となる。

 この影響は、前腕屈筋群に最も鋭敏に現れる。屈筋群は浮腫膨化し、筋膜区画の内圧が上昇するため静脈還流も傷害される。このため筋浮腫はますます増強し、屈筋群の間を走行する正中神経および尺骨神経にも圧迫麻痺を発生させる。このような変化が長時間持続すると、屈筋群は非可逆性変性に陥り、前腕筋収縮による定型的フォルクマン拘縮を発生する。

 第一次的原因は動脈血行障害と考えられるため、フォルクマン拘縮を阻血性拘縮とも呼ぶ。
「減圧切開法」
 筋肉や皮下組織の圧が、何らかの理由で上昇すると静脈・動脈灌流が阻害され、更に神経及び周囲の組織も損傷されてくる。
 減圧切開ないし減張切開とは、組織圧上昇のため、障害を来したあるいは障害を来すと予想された状態に対して、圧を低下させる目的でなされる切開法で、皮膚・皮下組織・筋膜・筋肉等に対してなされる。
 組織内上昇の原因となる病態、発生する部位などさまざまであり、また呼び名も類似の病態を含めて多くの呼び名をある。
 原因としては、外傷(特に骨折・脱臼・筋挫滅傷)、熱傷、血行傷害(特に血行再建後)、刺傷(毒物・感染の加わった状態)などがある。また長時間の局所の圧迫や不適切な(強すぎる)包帯等も原因となる。
 発生する部位としては、特に四肢が代表的である。四肢では、筋肉・血管・神経組織は、周囲を強靭な筋膜で囲まれ、更に骨組織・骨間膜によって幾つかの区画に分けられている。この区画をコンパーメント(区画)と呼び、外傷等で圧が上昇した際を、「コンパートメント症候群」と言う。
 呼び名としては「コンパーメント症候群」のほか、類似する病態として「フォルクマン拘縮」「挫滅症候群」「横紋筋融解」「再灌流傷害」などがある。

「症状及び診断」
 組織の壊死は、数時間の組織圧上昇が発生し12時間程度で不可逆的となると考えられる。
 症状・所見としては、早期には局所に強い疼痛を伴う腫脹が見られるが、進行すると皮膚蒼白・知覚障害・麻痺・脈拍不触知等が出現する。
 また広範囲熱傷(胸部・躯幹・頚部・四肢全周等)、特にB度熱傷では、皮下の浮腫に加え、皮膚の進展性がないため、組織圧が上昇する。胸部・躯幹では、呼吸不全(拘束性換気傷害)が起き、頚部では、血行傷害が出現する。
 診断は、@原因となる疾患の有無、A症状、B組織圧の測定、による(ちなみに、この圧測定は保険診療の範囲外である。高度先進医療のため大学病院しか、検査不可)。組織圧測定はトランスデューサーを用いた圧モニター機器がなくとも、中心静脈測定セットや血圧計を装備したものでよい。注意点は、確実に目的とした部位に穿刺針を刺すことと、無菌操作を確実に行う程度である。組織圧が、毛細管以上、すなわち25〜30mmhg以上では、傷害が出現するので減圧切開の適応である。

「治療方針」
 筋膜切開がなされる。基本的には早期より施行すべきである。しかし出血傾向等の合併症がみられる際には、最小限の切開とするなど慎重な対応も必要である。
「筋膜切開」
 常に局所の解剖を念頭において、すべてのコンパーメント(区画)の減圧を行うことが原則である。前腕においては、4ヶ所のコンパーメント(区画)の減圧を行う。(4ヵ所にメスを入れる)減圧直後は、大量の膨張した筋肉が膨隆してくる。創部は、厚生物質含有軟膏で被覆する。
 感染を伴う開放性骨折(骨が外から見える)創において、皮膚の一時閉鎖を避けることも同様の意図が含まれている。
「管理上の注意」
@ 圧上昇が長時間にわたると、非可逆的な壊死を来たし、減圧切開の有効性が低下し、最終的に四肢切断が必要となることもある。それゆえ、組織圧上昇を早期に診断する事が重要であり、症状・創部所見を頻回にチェックする。被覆された創部は特に注意する。
南山堂「医学大辞典」より
強調部位は管理人によるものです
有茎広背筋移植術について
有茎とは、皮弁の形態の事を言います。
「皮弁」(SKIN・FLAP)
【有茎皮弁:PEDICLE・FLAP】
 皮弁とは遊離植皮に対応して用いられる植皮術で、茎状になった皮膚あるいは皮下組織で、この茎を通してその先端の組織の栄養、血行をつかさどるものである。すなわち、その生着は茎内の血行に依存する。血行の形態により茎に特定の血管を含まないランダムパターン皮弁と栄養動静脈を含むアキシアルパターン皮弁に分けられる。
 皮弁は体表の各所の皮膚軟部組織欠損部に応用することができるが、利点として、血行がよいので植皮床の血行不良であっても生着可能である。また感染、外力に対する抵抗力が強く立体的再建が行え、前後下部組織との癒着が少なく拘縮も少ない。特にアキシアルパターン皮弁の場合は遊離皮弁としても用いられる。欠点として、作図、挙上、移行、など手技が比較的複雑で、dog ear、厚みなどを生じ後日の修正を要する場合があることである。
 皮弁には皮弁作成部位を移植部位近隣に求める局所皮弁と、皮弁を遠くに作成して移植する遠隔皮弁がある。局所皮弁の他の分類法としては、@ 移動法による。A 皮弁が栄養される茎部の様態による。B 皮弁の血行形態による。C 皮弁に含まれる組織による。D 解剖学名や人名によるもの等がある。

「遊離皮弁」は移植元から完全に切り離された皮弁のこと。
「有茎皮弁」は一部、移植元に茎を持ち、血行を移植元の細胞・組に依存するもの。

「広背筋」
 肩甲骨下部から、腰背筋までの間を埋める、背筋群で最大の筋肉であり、左右の広背筋が存在する。

「筋皮弁」
 筋皮弁は血行の状態からいえばアキシアルパターン皮弁に準ずるもので、血流は十分に受けることとなる。筋皮弁とは、皮膚全層、皮下脂肪と筋肉を含む皮弁のことで、血行としては筋肉に含まれる組織内の血管の血流供給を受け、この筋肉内の血管から垂直に出て、皮膚に向かう穿通枝が皮下血管内網に達して皮弁を養っており、したがってこの穿通枝を温存しなければならない。
 皮弁がやや厚くなること、その皮弁に含まれる筋肉のもつ機能が失われるなどの欠点があるが、非常に血行がよいので、近年特殊な部位に限ってよく用いられる。また遊離筋皮弁としても移動が可能である。

【少し解説】
 原告の青年は、フォルクマン症候群による、筋肉壊死・神経破損により、前腕から手部の機能を喪失しました。これを回復するため、背筋の一部から、筋肉内に動静脈や皮下軟部組織を含む移植を行いました。死滅した前腕部への移植のため、背筋の一部を「有茎」として背筋に残しながら、そこからの血行に依存しながら、前腕部への移植を顕微鏡下で行ったものと思われます。熟練した形成外科か整形外科医による、特殊な手術です。
南山堂「医学大辞典」より
斜体文字部分は「施設内虐待を許さない会」による説明。)
正中・尺骨神経剥離術について
「正中神経麻痺」
 正中神経は尺骨神経とともに手指と手の屈曲をつかさどる筋群を支配している。このため、本神経の麻痺の際には、とう側(前腕の太いほうの骨の側)手根屈筋が障害され、尺側(前腕の細いほうの骨の側)手根屈筋の過作用によって、手関節を屈曲すると尺側へ引かれる。
 また第1手指(親指)が他の4指と同一平面上に位置し、母指球筋隆起が萎縮するため猿手を呈する。手指の屈曲の障害は第1、第2(人差指)手指で観察しやすい。感覚障害は第1〜第3(中指)および第4(薬指)のとう側(親指に近い側)手指、手掌のとう側2/3の範囲に生じ、第2〜第3手指の末梢に顕著である。
 正中神経麻痺の原因は上肢の骨折、胸郭出口症候群など機械的なものが多い。手根骨隆起と横手根靭帯との間で正中神経が絞扼される手根管症候群が発症する。これは腱鞘炎、先端巨大症[末端肥大症]などが原因となる。先端巨大症では、その治療に伴い本症候群も軽快するが、他のものは手術を必要とすることが多い。
「尺骨神経麻痺」
 上腕骨頭や肘関節部の骨折、肘部管症候群などによる機械的損傷、運動ニューロン(神経)疾患、らいなどによる部分症として発症する。症状は、
(1) 骨間筋の麻痺による内転障害と、外転筋である固有小指伸筋(とう骨神経支配)の過作用により第5手指(小指)は外転位をとり、
(2) 第1と第2手指の間で強く紙片をはさむとき、母指内転筋麻痺のため長母指屈筋(正中神経支配)を使うため第1手指の末節が屈曲し(フロマン徴候)
(3) 骨間筋萎縮のため手背の骨間溝が明瞭となり、
(4) 小指球筋隆起が減少し、
(5) 末節骨が屈曲し鷲手を示し、
(6) 第5手指全体と第4手指の尺側(小指側)の感覚障害をきたす。肘部の骨折や外反肘などがあると、数年以上たって徐々に尺骨神経麻痺が発症する。(遅発性尺骨神経麻痺)
「神経剥離術」
 神経に外力による圧迫や周囲の瘢痕による狭窄に起因する麻痺があり、自然回復が認められなかったり、神経縫合・移植術を行ったのちに思うような回復が得られなかったりした場合に行われる手術である。
 損傷部をその上下の正常部から追っていって、周囲組織から剥離し、絞扼が認められれば、その部の神経上膜(epi-neurium)を切開ないし部分切除する。周囲組織が瘢痕化していれば、健常な部位に神経を移動したり、脂肪弁で被覆したり、さらに有茎皮弁で覆ったりすることが、必要になることもある。
南山堂「医学大辞典」より
斜体文字部分は「施設内虐待を許さない会」による説明。)

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