STOP!児童養護施設内虐待

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2001.5.8

運営適正化委員会と児童養護施設における権利擁 −今井城学園への「改善申し入れ書」をめぐって−



 はじめに

東京都の児童養護施設今井城学園に対して、東京都社会福祉協議会福祉サービス運営適正化委員会(以下、東社協適正化委員会)は、同園への調査結果を取りまとめ『児童養護施設今井城学園に対する改善の申し入れ書(平成13年3月27日)』として改善を申し入れた。今井城学園の職員に聞いたところでは、ここ1〜2年の間に、園長が任命した主任、副主任などが管理的抑圧的な処遇を進め、強制と処罰が急速に拡大したという。
 昨年、今井城学園では、権利侵害を訴えるさまざまな行動があった。最初に子どもたちが、行動を始めた。
  1. 東京都の指導監査のとき=6月に、都の職員に子どもが手紙を渡し窮状を訴えた。
    この手紙は事業担当課にわたり、園長に注意があったようだ。
  2. 児童福祉司が来園したとき=9月に、「今の園の変だと思うところを全部話した」ところ、福祉司は「児童相談所に持ち帰り話をして見る」と返事をしたという。
  3. 子どもの権利擁護委員会(東京子どもネット)に電話をかけた。その後、子どもに対 して何も返事がなかった。
 このような状況で、子どもたちは「何をしても何も起こらない」と大人への不信感を募らせていた。それを子どもから相談された市民が、児童相談センターに事態を通告に行き、調整担当者と話し合いをした=11月。しかし、園では何も変化は起きなかった。
 そのような中、一部の子どもが玄関付近のガラス戸に、「園長やめろ」、幹部職員に対しては「必要なしOOO」「OOやめろ」「顔も見たくない]等といたずら書きをする事件がおきた。ことの深刻さを痛感した職員の一部が、権利擁護に詳しい方に相談をした。そこから事態を知った方々は、管理運営の主導権を握っている幹部職員達による権利侵害は、内部努力による改善は期待できない考え、12月22日に東社協適正化委員会、厚生省家庭福祉課、東京都福祉局等への通知に踏み切った。
東京都福祉局は、12月28日に異例の緊急調査を今井城学園におこなった。


1、運営適正化委員会とは

 社会福祉事業法の一部改正において、利用者の利益の保護、苦情解決に関する規定が整備された。 第1条の目的規定に、「福祉サービスの利用者の利益の保護・・・を図り社会福祉の増進に資すること」が明文化され、第3条では福祉サービスの内容について提供者が従うべき規範を示し、「個人の尊厳の保持を旨とし」「利用者が心身ともに健やかに育成され」「その有する能力に応じ自立した生活を営むことができるように支援する」「良質かつ適切なものでなければならない」ことが定められた。第5条においては、「利用者の意向を充分に尊重し」「他の関連サービスとの連携を図りつつ、総合的に提供するよう努めるべき」と、福祉サービス提供の原則が定められた。

 そして、利用者が苦情を自由に申し出ることができる苦情を解決するためのシステムを整備した。苦情解決の仕組みは、事業者段階と都道府県段階に位置付けられた。
 社会福祉事業経営者に対し、第82条は第一義的には事業者による解決の努力が不可欠であるとして、利用者からの苦情を適切に解決する責務を課した。

 当事者同士の話し合いでは解決が困難な苦情については、公正中立な第三者機関による調停や斡旋などでの解決が求められることから、運営適正化委員会による苦情解決を第84条、85条、86条で定められた。苦情解決の申し出があったときには、その相談に応じて必要な助言及び調査を行う。苦情解決の斡旋の申し出があった場合は、双方の同意を得て斡旋をおこなうことができる。苦情解決にあたり利用者に対して虐待などの不当な処遇が行われているおそれがあると認められるときには、知事に速やかに通知して、行政機関による解決を促すこととなる。

 東社協適正化委員会は、第83条にもとづき都道府県社会福祉協議会に設置されることになったものである。福祉サービスの苦情解決合議体と地域福祉権利擁護事業の運営の適正化を図る運営監視合議体費より構成されている。 

苦情解決で取り扱う内容は以下のとおりである。
  (1)福祉サービスに関する問題(虐待、放置、サービス内容、処遇等)
  (2)契約などに関する問題(利用料等)
  (3)施設運営に関する問題(寄付強要等)
また、相談に応じて、調査、助言、申し入れ、話し合い、斡旋、都知事への通知を行うとしている。今井城学園は、調査、申し入れ、知事への通知の最初のケースである。

 申し出や通知をする最初の目標は、適正化委員会に問題を正確に把握してもらうことであり、自分の思いや義憤を理解してもらうことではない。申し出人は、思いを先走らせずに、適正化委員会に事実を正確に通知することが極めて大切である。


2、改善申し入れ書の認定された事実などについて
改善申し入れ書では、苦情申し出事項について調査した結果、それらは全て実際にあったこととしているばかりか、”本施設においては、しつけに名を借りた体罰(正座、ベランダへ出す、食事を与えない)、言葉の暴力や脅し(出て行け、追い出す、いられなくなる)および無視などの心理的虐待が日常的に行われていることが複数の児童の証言により判明している”と、申し出事項以外の懲戒権の濫用や虐待行為も厳しく指摘をしている。

  1. 人格的辱め、心理的虐待
     今井城学園の場合は、児童福祉施設最低基準第9条の2の懲戒権の濫用禁止が「肉体的苦痛を与え、人格を辱める等その権限を濫用してはならない」と定める人格的辱め、児童虐待防止法が定める心理的虐待などが認定されていることに特徴がある。
     おこづかいの減額に対しては、”児童から意見を聞いた痕跡は見られない”として、”児童には施設での生活に対して自分の意見や希望を言う権利(意見表明権)があるあることを施設として認識をし、とりわけ児童にとってサービスが低下するようなやむを得ざる事態が生じた場合やサービス内容が変わる場合は、必ず児童の意見を聞く機会をつくるようにするべきである”と述べて権利侵害があったとしている。

     園内全員に見られる場所に掲示された処罰書には、「氏名、期間、理由、処罰内容」が具体的に書き込まれていた。”万引きなどの情報は、明らかに児童自身のプライベートな情報であり、本来ならば取り扱いについては細心の注意を払わなければならない”とし、このような内容を公表することは、児童の健全な育成の妨げとなる恐れがあるとした。さらに、1カ月におよぶ外出禁止やお小遣いの停止は”行き過ぎた懲戒権の行使”と判断されても仕方がないと述べている。

     児童の施設変更が一部職員の独断で行われたことに関わり、”児童に対して、『園にいられなくなる』という言葉で脅かし、管理しようとしていること”は、”決して行ってはならない言葉による虐待”であると厳しい指摘がされている。

    今井城学園職員によると、改善申し入れ書に指摘された他にも権利侵害等はあるという。
     ・指導と称して、大勢の職員の前に子どもを立たせて詰問をした。
     ・高校を中退した子を、長期間、他の子どもとの接触を禁止して別室で生活させた。
     ・子どもが無断で親の家へ帰ったからと、荷物を運びだし園での居室を無くした。
     ・園長が子どもたちに、高校は都立だけと説明をし、私立高校などの進路選択をできなくした。そのために、中卒で就職した子が出た。

     これらを含めて考えると、実際は改善申し入れ書よりもひどい状態だったようである。今井城学園から施設変更された高校生が、改善申し入れ書を読んで、「実際はこんなもんじゃない、もっとひどい」と言ったことがそれを裏付けている。

     
  2. 処遇・子どもへの関わり方への要望

    養護内容について、批判と同時に多くの要望がされている。

    • 児童が意見を表明するにあたっては、施設側が有利になるような誘導や押し付けが
      なされないよう、施設運営側とは異なる意見を有する児童が気兼ねなく自由に発言できるよう施設として十分注意することが望まれる。
    • 管理的・画一的な処遇ではなく、ひとりひとりが大切・ にされていると感じられるよ  
      う、児童の話を聞き、受容する姿勢をすべての職員が持つことが大切であることを改めて認識していただきたい。
    • 体罰を容認したことを反省するのみならず、自立に向けての親身で献身的な援助あり方についても施設全体で深く思慮する機会としていただきたい。
    • 問題児というレッテルを貼り安易に措置変更するのではなく、本児にとって真に頼れる施設、いつでも帰れる”我が家”となるよう、受容的・支持的関わりを心がけ本児の気持ちをくみ取るようなこまやかな対応に努めることが本児を受け入れた施設の責務であろう。
    • 反社会的行為は児童の重要なSOSのサインであり、結果として現れた行動自体を  
      問題視するだけでなく、児童とじっくり話す機会をもち、児童の心情や気持ちを大切にし、行動の背景となる児童の心理問題をも把握し理解するよう努めていただきたい。

    このような文書の中においては実施されていることに対して、あえて要望を出すことはないと考えられる。このような養護の基本的なことができていない施設であるからこそ、出された要望なのである。

     
  3. 管理運営責任

     改善申し入れ書のもう一つの特徴は”こうした諸課題に対し、その主たる責任を負うのが施設長である”として、不適切な処遇が行われることの管理運営責任について、言及されていることである。
     園長の管理運営責任については、”施設長は・・・・・一部の幹部職員による独裁的な業務の進め方、職員による児童の管理体制といった旧態依然とした運営管理の体質を改め””より良い施設づくりを目指すよう鋭意努力をしていただきたい”と、述べている。
     職員に聞いたところ非民主的運営の実例として次のようなことが話された。

    • 主任、副主任が各部署の意見を集約して運営会議は開かれることになっているのだが、意見集約のための話し合いが持たれたことが無い。
    • 職員会議で運営会議の提案と違う意見を発言すると、その後、運営会議のメンバーに問い詰められたり、嫌がらせを受ける。
    • 職員には始末書を提出させることでも、運営会議のメンバーは不問になる。
    • 園長と運営会議のメンバーで恣意的な人事をする。などなど

    これでは、職員が定着できない訳である。
     ”退職による職員の出入りが多く・・・いつの間にか知らない人が居ること””職員が辞めることについて施設から何の説明がないこと”などにたいして、子どもたちが不満を持っている。”職員が退職すれば担当も変わるし、部屋替えも頻繁に行われているため””児童たちの精神的な不安定につながっている”と、職員の定着性の低さを批判し、”職員が職場に定着することは児童の生活の安定にもつながる”と述べ、園長の人事能力の無さが施設を混乱させていることを明らかにしている。

     ”本児宛の銀行からの封書を本児に断りもなく施設職員が無断で開封し、施設として容認していること”は、”刑法133条(親書開封)にも抵触し、施設といえども許されない行為”であるとして、”本来ならば本児に対し、施設として謝罪するべきである”とされた。このことは、園長は人権意識も問題視されている、と理解される。

     改善申し入れ書の最後にわざわざ《施設長は、施設運営の最高責任者としての自覚を持ち、真に児童の生活と権利を守る砦を築く》という項目を設けている。これは、最高責任者としての自覚を持っていない為に、特に設けられた項目と考えられる。施設運営の生命である処遇に関しては、”本施設における児童の処遇内容は、しつけの名を借りた過度の生活・行動管理であり、児童の基本的人権を蹂躙するものと言わざるをえない””児童と職員の信頼関係が出来ているとは到底判断することはできない”とまで批判をされている。 改善申し入れ書には明文化されていないが、このような園運営をしてきた者が、引き続き園長に留まることが許されるのかが問われているはずである。

     

3、児童養護施設における権利擁護のための事実認定調査について

 児童養護施設における権利擁護のための事実認定調査のあり方について、先行事例の神奈川県の子ども人権審査委員会、千葉県の事例を参考にして整理しておく。筆者は、この調査のあり方が、第三者機関が機能、役割を果たすうえで、決定的に重要な意味を持ってくると考えている。
 権利擁護の為の調査は、客観的事実の把握、権利擁護の観点からの審査、適切な対応に向けた調査結果の扱い、この3つの要素が満たされて有効な権利擁護の活動ができることから、調査はこれらの目標の達成を目指して行われなければならない。
 今回、今井城学園への調査は、東京都福祉局育成課、東社協適正化委員会がそれぞれに行った。行政の調査は、担当者の努力は認めつつも、課題があるものだった。


@予備調査、情報収集について

 訴えの窓口は匿名による訴えが出せるもでなければならない。苦情や不満を訴えるのが、子ども自身や子どもの身近にいて、加害者と関わりがある場合が多いために、施設に名前を明かせない場合が多いと考えられる。また、被害者側からの訴えが無くても、人権侵害の可能性のある情報を捕らえた場合は調査にのり出すことも、行政や運営適正化委員会、子どもの権利擁護委員会には求められる。
 苦情の申し出があった場合に、専門的な調査を行う必要があるかを判断するための予備調査、情報収集が必要となる。話を正確に把握し、主観的な印象を修正し、共通認識を持つなどの調査の客観化を図るために、原則として複数の調査員が同行して行うことが必要である。収集する情報は、人権侵害の種類とレベル、人権侵害の事実と経過、加害者は誰かとその人物に関わる情報等である。当該施設に関わる、文献等の収集も必要である。

 関係機関からの情報収集では、原則的には、直接出向くこと。相手機関にも守秘務があり情報提供に慎重を期するため、十分に配慮が必要である。
 情報収集で得られた人権侵害の内容について、当該施設に確認を求める。
 そのうえで、人権侵害に関する第三者的な客観的、専門的、中立的調査が必要かどうかの検討、審議をする。子どもの権利擁護の視点に立って、予備調査で改善が図られるのか、それとも、施設側の抜本的な意識変革や運営改善を求めるために、専門調査が必要であるかを、子どもの権利擁護機関、第三者機関として判断を下すことになろう。


A子どもへの調査
  1. 聞き取り調査の準備
    調査期間はなるべく短くする。入所中の子どもへの調査は1日で依頼する。対象者へは調査の意図を伝え、協力の依頼も併せて行う。対象者は在園生だけで無く、必要に応じて元園生、保護者、元職員も含む。

     事実確認をする項目を整理して調査票をつくる。調査チームは、各チーム最低2名の調査員と1名の記録者が入る。神奈川県の子ども人権審査委員会では、各チームに必ず弁護士1名が調査員として入った。


  2. 調査の実施
    子ども側=被害者及びその関係者の調査を先に行う。

     東京都福祉局の調査は迅速に進められたものの、子どもへ側の調査と園側の調査を平行して進めた。そのために、子どもに対する二度目の調査の時には、園長から子どもに対して口止めがあったと子どもたちが証言したという話が伝わっている。また、調査は育成課職員が複数であたり、客観性を持たせる工夫はなされたものの、聞き取りを事務職員だけ進めたことは調査チームの構成としては問題があると言わざるを得ない。

     正確な情報を得るための質問技術と調査対象者への心のケアができる調査員が必要である。調査期間は、口裏合わせをしないように、できるだけ短期間で行う。施設側が犯人捜しをするのを避けるために、入所中の子どもは全員に聞き取りをすることが求められる。 面接を始めるにあたっては、目的を明らかにすることが大切である。プライバシーが保護されること、聴取した内容をどのように扱うのか、を子どもの年齢によっては伝えておくことも必要となろう。

     調査後に、記録者が調査対象者ごとに調査結果をまとめる。調査員が、正確にまとめられているかを確認する。浮かび上がった事柄を項目ごとに整理して、施設側に確認する事項について審査検討する。この資料を元に施設側への調査の質問を整理する。


  3. 子ども側への調査の留意点

     虐待を受けた子には、「内輪の秘密を守ろうとする傾向」「養育者をかばおうとする傾向」「自分が悪いから罰を受けると考える傾向」「養育者に捨てられる不安」から、事実を隠そうとする秘密保持の傾向が見られる。児童養護施設の子どもたちにはこのような心理作用が働きやすいことを認識したうえで、さらに施設内での人権侵害を受けている可能性が高い状況を十分に踏まえて聞き取りを行うことが求められる。

     子どもの話を聞くうえで注意すべきこととして、次のようなことが考えられる。
     子どもが回答しても安全であることの保証を与えなければならない。子どもに対してイエス・ノーを求めて発問してはいけない、しかし、発問を工夫しないと誘導になるおそれがある。子どもには時間の感覚、観念が無いのが特徴なので、発問や理解にあたって、このことを念頭におくこと。子どもの不安に共感をすること。「話してくれれば、必ず良くしてあげる」等の不確実な言葉は言わないこと。何度も同じことを聞かれるとストーリーが作られたり、トラウマになることがあるので、良く準備をしてから聞き取りをすること。



B.施設への調査
 調査の準備は子どもの場合と同じように、調査期間の設定、調査対象者への調査依頼、質問票の作成、調査チームの編成を行う。神奈川県の子ども人権審査委員会では、調査員の弁護士が質問票を作成し、施設側への聞き取り調査での質問も、弁護士によってすすめられた。
  1. 調査の実施
    調査員、記録者それぞれ複数で調査の実施する。調査員には、客観的事実の確認を行う面接技術に長けた者、相手の心理をくみ取る心の専門家、子ども権利に精通した者など、学識者、弁護士、精神科医などの専門家が求められる。事前に役割分担を行っておく。進行する者、質問者、質問を補う者、記録者である。より正確に記録するためにテープ録音をする。

  2. 施設側への聞き取りの調査の留意点

    専門調査を行う場合は、施設側と子ども側が対立している場合である。

     子どもの権利について認識に大きな違いがある場合を想定して、議論にならないように努めることが大切である。人権侵害についての聞き取り調査は、聴取される側にとっては、その時の状況や事情、言い訳、子どもとの信頼関係等、調査員に解ってほしいという願いがあったり、自分なりの子ども観や養護観があったりと難しいのが現実である。
     だからこそ、いつ、何処で、誰が、誰に、何をしたのか、その時の状況はどうであったのか等の、客観的な事実の把握に努め、調査員のペースを保ち、実施するよう留意する必要がある。


  3. 調査結果のまとめ

    施設側の調査後、質問ごとに施設側の言い分を列挙して、子ども側、施設側の調査結果表をもとに、事実認定審議を行う。

C事実の認定
a.事実の認定
 公表された資料によれば、神奈川県の子ども人権審査委員会、千葉県の事実認定の基準は次のとおりである。

 ア 神奈川県 子ども人権審査委員会
  • 園側と子ども側の話が一致していること
  • 園側が否定していても、複数の人が同一のことを話していること
 イ 千葉県 恩寵園に対する第二回調査
  • 被害者及び加害者双方の申し立てが概ね一致したもの
  • 加害者が自ら申し出たもの
  • 推定された事柄 被害者の申し立てがあり、複数の目撃者があるもの
    密室などで目撃者はいないが、被害者の申し立てに一貫性があるもの
 事実認定の基準が違えば、調査結果は違ってくる。千葉県恩寵園の場合、子どもたちの逃走事件当時、県の認識は児童家庭課、児童相談所による調査をしたうえで、「子どもや職員がいろいろ言っているが、たいしたことは何もなかった」というものだったが、これは判断基準に原因があったと考えられる。「園側が否定していても、複数の人が同一のことを話していること」の扱いの間違いが、その後の混乱の原因と思えてならない。
 東社協適正化委員会が、”園側が否定していても、複数の子どもと職員が話している”権利侵害、虐待行為を事実認定しているのに対して、東京都福祉局は「限りなく黒に近いという推認であって、事実確認ができない」としている。被害者が被害を訴えたり、虐待の目撃者が目撃証言をしても、加害者が加害を認めなければ、事実認定ができないというようなことで、子どもの人権擁護ができるのかはなはだ疑問である。

b.人権侵害の認定
事実認定を行った後、子どもの権利擁護の観点から問題があるのかないのか、人権侵害であるのかないのかの審議を行う。
法的根拠をもとに、子どもの人権侵害であるかを見極める。子どもの権利条約、児童福祉法、児童福祉施設最低基準、社会福祉法、及び各種通知と照らし合わせて判断をする。


4、運営適正化委員会の効力

 制度が立ち上げられたばかりであり、効力について語るには早すぎると思われる。それでも、制度が無い時期とは明らかに違った状況が生まれている。
 事実を知り、通知する勇気を持つものが一人でも出てくれば、問題の施設がそのままでは居られなくなるということである。
 二つめに、第三者機関が調査をし通知することで、行政が動かざる得なくなることである。子どもや市民が行政に働きかけても、園の生活は何も変わらなかったものが、こづかいが戻るなどの若干の変化が表れている。
 三つめに、第三者機関による調査結果として認定された事実の重みである。改善申し入れ書が述べるような”幹部職員による独裁的な業務の進め方”が行われている施設において、内部からの変革は困難を極める。そして、子どもの権利擁護を主張しても、職員間の対立、労使対立にすり替えられてしまうことも少なくない。認定された事実は、そのような状況を変える力となる。
 四つめは、情報が公開されることで、社会的な批判がさまざまな形で起きることである。ボランティアサークルの会長は会報に、「園では在園児に向けて人権侵害を行い、その自覚もなく、恥じることもない」「40年近い天使園との関わりの中で、園児がこれほど圧迫されている状態を知りません」として、発言は責任のともなう公開が原則と断ったうえで「委員会が指摘している問題点をどのように受け止めるのか、おひとりおひとりの問題として、お話し願いたい」と提案している。また、園に関わりの深い地元の元小学校校長、元中学校PTA会長、卒園生、元職員などが、今井城学園の子どもたちを支える会をつくり、園に対して全理事の辞任、加害職員の解職を要請した。

 東京都福祉局と東社協適正化委員会の調査が入り、新聞報道がされ、『改善申し入れ書』出されるという状況にあった時期の、今井城学園の職員会議などでの園長、幹部職員の発言は、伝え聞く限りでは、懲戒権の濫用や権利侵害を反省して養護内容を改善していこうというようなものではない。

 園長は、小遣いの減額は「職員会議で決めたこと」と運営管理責任者としての自覚の無さを露呈している。以下に示す幹部職員の発言を同席していたにもかかわらず、黙認していた。食事抜きの罰を与えた幹部職員Aは、子ども会議で子どもから「新聞に載るような悪いことをしたなら、謝るべきじゃないの」と言われても謝らず、子ども達に対して通告者への不満を誘導していた。Bは「小遣いを持っていたのだから」と、食事抜きという懲戒権の濫用を詭弁で合理化しようとした。Cは自らが書いて張り出したことで、子どもを辱めたことを反省するどころか、通告者捜しを園長に求めていた。Dは食事を止めても生死に係わることでないのだから虐待ではない、と繰り返し言っていた。

 園長や幹部職員の行っている、子どもに対する権利侵害と非民主的独裁的な業務の進め方に対して、卒園生、元理事、元職員、ボランティアなどの方々も、それぞれに心を痛め、これからの今井城学園を心配している。しかし、園長たちは、身を屈めて嵐の過ぎることを待っていれば、園内の基本構造は何も変わらないでやり過ごせるとでも思っているかのような言動である。だから、改善が着実に進められない場合は、管理運営体制の刷新が必要なのである。

 適正化委員会の限界は、強制力が無いことに尽きる。申し入れに耳を傾け、自主的な改善の努力をするという信頼関係があって効力を持つ制度なのである。しかし、問題を起こしている人に人の話しに耳を傾ける謙虚さがあれば、第三者機関までもつれ込むことは無いのである。東社協適正化委員会では一定期間の様子見をして、改善が見られなければ行政に通知をして、強制力で対処してもらうことになるとしている。


 おわりに

 第三者機関は告発のための機関ではない。それは、当事者同士の話し合いでは解決が困難な問題の解決のための機関である。
 社会福祉施設の職員の間違いや失敗を、細々と告発する場では決して無いはずである。人間には、間違いや失敗は付き物である。社会福祉施設職員も間違えや失敗をしながら職業人として一人前になっていく。間違いや失敗があっても多くの人は、気づいたときには謝り直す、指摘されたときには謙虚に受け止め改善の努力をする。そして、意見が違えば話し合うのである。そのような当たり前のことが当たり前になされている施設ならば、問題が起きても当事者間の話し合いで解決され、何も第三者機関を必要とはしない。
 第三者機関を必要とするのは、問題を解決できない状態で、権利侵害、虐待が続けられている場合である。児童虐待防止法は、第5条において早期発見を児童福祉施設職員に義務づけた。そして、第6条及び児童福祉法第25条において、広く国民に児童虐待を発見した場合の通告義務を課している。児童養護施設内においても権利侵害や虐待があれば、発見者はたとえそれが職員であっても通告義務が生じる。改善の見通しの無い虐待や権利侵害を前にして通告しないのは、違法行為となる。
だから、権利侵害、虐待が構造的に行われているような施設が、第三者機関の調査対象となっていくはずである。児童養護施設は、権利擁護では大きな課題を残している。新しい制度の活用も含めて、課題の克服が求められる。

以上

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